森見登美彦さん『夜行』読了!
2017年の本屋大賞にノミネートされている作品です。森見登美彦さんの作家生活10年目の節目に、意気込んで書き上げたのだとか。
読んでみるとファンタジーなブックデザインからは想像できない、ゾッとするホラーな世界が広がっていました。解釈が難しくて、久し振りに2回読んだ小説です。
『夜行』の概要・あらすじ
『夜行』は2016年に発売した森見登美彦さんの最新作。ファンタジー的な要素がありつつも、どこか不気味で、感情をモヤモヤとくすぐられる物語です。
以下、amazonよりあらすじ。
僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
物語は学生時代の仲間たちが、10年越しに京都に集合して始まります。
なぜ久々の再会になったかというと、10年前、彼らの仲間の1人である「長谷川さん」が突然失踪してしまったからなんですね。
彼らは各々が集合前に、「夜行」という絵画にまつわる奇妙な経験をしていました。一人一人が重たい口を開き、語っていきます。
僕は『夜行』が森見登美彦さんデビュー。
ユーモラスな文章が特徴って聞いてたんですけど、今作はとても不気味で驚きました。振れ幅の大きい作家さんなんですね…。
京都が舞台なのは、森見さん自身が京都大学出身である影響が大きいようですね。
以下、ネタバレありです!!
『夜行』の感想、見所
解釈できず、2度読みした!
『夜行』を読み終わった感想は、「ん!?どういうこと!?」でした。
明確に「答え」が示されたり、伏線が回収されないので、解釈が読者に委ねられています。
結局、僕は一度では噛み砕くことができずに、2回読んじゃいました…。
小学館の公式ページに「夜行を読み解くための10の疑問」というページがありまして、こちらが読解の手助けになりそうです。
▼「夜行を読み解くための10の疑問」ページ。
また、著者の森見さん本人がインタビュー内で、「日常の世界」と「向こう側の世界」が、入り混じる様子を描いたと語っています。
〈自分たちの日常の世界〉と〈向こう側の世界〉が接近するというか、その2つが入り混じる場面が小説のクライマックスになることは確かに多いと思います。その2つの世界の境目をあやふやにするような場面と言えば、1つは「お祭り」、2つ目に「宴会(酔っぱらっている状態)」、あとは「夜」がある。
物語の重要な場面で描かれる「夜」は、2つの世界の境界を意味してるんですね。
『夜行』では「夜」+「絵」の存在によって、世界が入り混じります。
以下、章ごとに僕の解釈を書きます。
最終章:「鞍馬」の解釈
わかりやすくするために、最終章から読み砕きます。
物語のヒントとなるのは、岸田が留学中に見たゴーストの絵です。作者が偏愛の末に殺害した女性が、絵の中に出て来たそうで。
「彼の作品に姿を現したのは、その娘のゴーストだったというわけですよ。この絵の中の娘に心惹かれると、彼女が少しずつ振り向いてくるそうですよ。そして彼女の顔が見えたとき、その人間は絵の中へ連れ去られるんだ。あなたも気をつけるべきだね」
岸田がそのゴーストの絵に影響を受けて制作した「夜行」もまた、異世界への扉を開く力を持つことになりました。
岸田は、絵の中の女性を「長谷川さん」として描き続け、片方の世界では死に、もう1つの世界では彼女と結婚しています。
絵の中に女性に「理想の人」を重ねると、絵の中(別世界)に連れ去られるんですね。
大橋くんもまた、かつての意中の人だった長谷川さんを「夜行」の女性に重ね合わせることでもう1つの世界に来てしまいました。
対となる「曙行」を見ることで、最終的には「夜行」の世界に戻って来ますが…。
1章:「尾道」の解釈
ホテルマンと中井さんは、それぞれの奥さんを束縛していました。その結果、2人の奥さんは心閉ざしてしまいます。
中井さんは、ホテルで『夜行』に心惹かれる中で、絵の中の女性に「明るかった妻」を重ねたのでしょう。結果的に、絵の中に連れ去られ、中井さんの元に、奥さんは戻りました。
ホテルマンを殺めて、中井さんも自分の愚かさに気づいたようだし、一件落着ですね。
そのとき僕はようやく確信したのだ−妻の変身は僕の変身でもあるということを。
ん、一件落着なのか!?
って感じですけど汗。
この章では、絵の力だけでなく、「妻を束縛する偏愛」「自分の変化に気づかない愚かさ」が世界を歪めてしまうんだと感じました。
2章:「奥飛騨」の解釈
こちらは4角関係を描いた章。まず、温泉に向かう途中で、武田さんが寝る前のシーン。
「眠らないでくれよ。君が眠ったら、俺まで眠くなる」
「なんだか気が抜けちゃいましたね」
喫茶店で見かけた『夜行』でもトンネルの様子が描かれていますから、ここで居眠り運転による事故が起きたのは間違いないです。
問題は、誰に「死相」が出ていたのか。
ラストで武田さんと美弥さんが、温泉で寄り添います。この2人は生きているようですね。
が、これは「異世界」で生きてるのではないでしょうか。
元の世界では、2人は死んでいて、生き残ったのは増田さんと瑠璃さん。武田さんが喫茶店で「夜行」に引き込まれていましたから。
4人の関係がこじれた末に、絵を通じてカップルが異世界に分裂したわけです。
こんなふうに身体を寄せ合うのは久しぶりのことだと僕は思いました。
というラストにはゾクッとしましたね。「四角関係こじれまくってたんだな」って。
3章:「津軽」の解釈
児島くんは既婚者である玲子さんのことを、気になっていたのではないでしょうか。それで、画廊で見かけた「夜行」の女性に玲子さんを重ね合わせて、別世界に吸い込まれます。
「へぇ。夜の世界か」
児島君は感心したように呟きました。それから彼は何かを言いたそうにしましたが、その先のことは続けようとはしません。ただ私の隣に立って銅版画を見つめています。
玲子さんもまた、クラスに馴染めない過去を持っていて、絵の中の女性に架空の友達「佳奈ちゃん」を重ねていました。
児島くんの一件で記憶が再燃し、結果的に玲子さんも絵の中に連れ去られたんです。にしても、その後についてがわからなすぎる。
4章:「天竜峡」の解釈
田辺さんや佐伯さんは「絵」の力というより、「暗室」の力で、岸田が描いた絵の中の女性本人(長谷川さん、女子高生)と出会って、既に別の世界に来ているようです。
岸田を失ってからというもの、自分がいるべきで無い場所にいると感じて来た。
この章では誰かがいなくなったり、死ぬわけではなく、淡々と話が語られます。章としての目的は、岸田自身が絵の中に吸い込まれた様子を表現することにあったのでしょう。
それと最後の部分が少し気になりました。
「……ここはあの暗室なんだね」
「そうよ。私たちはずっと一緒だったの」
彼女はそう言って微笑んだ。
座席に深く腰掛けながら俺は安堵の溜息をついた。
自分がもう1つの世界に来ていて、目の前にいるのが岸田の描いた女性だと気づいた田辺さんは、「安堵」したんですね。
全てを悟った上で、また「暗室」を伝って岸田に会える…もしくは、岸田は他の世界で元気にやっている…と考えたのかな。
佐伯にしても田辺さんにしても、岸田に性別を超えて恋していたのでしょうか?
まとめ
うーん、久々に「難しい!」と感じた小説でした。他の人の感想もたくさん読んでみます。
ただ、この小説は「直感的」に解釈するものであって、こうやって具体的に文章としてアウトプット必要もない気がします。
不気味でホラーチック、心の中の深い何かを揺さぶられるような作品でした。
▼2回読んでも掴みきれない…。うぅ、深い。読み応えのある小説です!