原田マハ『暗幕のゲルニカ』を読みました。
最近は原田マハさんにハマりまくって、今作で4冊目となります。
正直、僕は美術に興味ありません。けれど、小説を通して、『ゲルニカ』やピカソの力、アートの力をひしひしと感じました。
『暗幕のゲルニカ』のあらすじ
『暗幕のゲルニカ』は、パブロ・ピカソが描いた絵画「ゲルニカ」を巡る物語です。2016年3月28日に発売。2017年の本屋大賞候補にノミネートされています。
以下、あらすじです。
反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの“ゲルニカ”。
国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、忽然と姿を消した…。
大戦前夜のパリと現代のNY、スペインが交錯する、華麗でスリリングな美術小説。
物語はパブロ・ピカソがゲルニカを描く1937年と、9.11同時多発テロ後の2003年を交互に展開していきます。どちらもピカソを愛す2人の女性からの目線です。
著者の原田マハさんは美術館での勤務経験がある方。『楽園のカンヴァス』など、これまでも”美術”がテーマの物語を残しています。
今作もフィクションと実話を混ぜつつ、「ゲルニカ」の真意を知れる内容でした。
「ゲルニカ」にまつわる実話
本の内容にも関わることなので、「ゲルニカ」にまつわる実話をおさらいします。
①「ゲルニカ」に込められた意味

「ゲルニカ」は言わずもがな、世界的な画家「パブロ・ピカソ」の代表作です。
こちらはナチスによる人類初の無差別空爆に沈んだ都市、ゲルニカを題材に描かれました。
空爆に怒りと悲しさが込み上げたピカソが、反戦への願いを込めて、約3.5m×7.8mの絵画をわずか40日たらずで完成させたそうです。
②「ゲルニカ」の暗幕騒動
物語の中心となっているのが、「ゲルニカ」の暗幕騒動です。僕はこの事件について全く知りませんでした…。
数年前まで「ゲルニカ」と同じ大きさのタペストリーが国連の会見場にありました。
しかし、9.11同時多発テロを受けて、アメリカがイラクへ空爆を行う前夜、国務長官が記者会見を行う際に、カメラの背後にあるはずの「ゲルニカ」に暗幕がかけられたのです。
「これから戦争をします」という会見の背後に、反戦の願いが込められた世界屈指の絵画があったら、民意が変わっちゃいますから。何らかの政治的圧力があったのでしょう。
以上の実話を踏まえた感想、ネタバレあり。
『暗幕のゲルニカ』の感想
①アートの力を感じた。
芸術作品は、部屋を飾るためにあるのではない。敵との闘争における武器なのだ。
こちらピカソの言葉です。
僕もさすがに「ゲルニカ」がどんな絵か?ってことくらいは知ってたんですけど、その制作経緯や影響力まではしりませんでした。
ピカソは「アートの力」でナチス・ドイツや戦争に立ち向かっていたんですね。
万博に設置された「ゲルニカ」をみた、ナチス将校に対してピカソが立ち向かうシーンがかっこいい。
「―この絵を描いたのは貴様か」
「いいや。この絵の作者は―あんたたちだ」
アートで世界を変える。
とっても難しいけれど、その力を誰よりも信じた人がピカソだったんだなと感じます。そして、物語の登場人物の誰もが「ゲルニカ」の力を信じていました。
実際にゲルニカは、制作から80年経った今でも、人々を惹きつけています。
②深い悲しみから再起!
2003年編の主人公の瑤子(ようこ)は、同時多発テロで最愛の夫を失います。
悲しみにくれていた瑤子ですが、恩人に言葉をきっかけに立ち上がりました。
イーサンがあなたに遺してくれたものを、一生をかけて守っておいきなさい。
イーサンが遺してくれたもの。それは、アートを愛する心──だった。
こうして美術館のキュレーターとして、「今こそピカソの力を借りた展覧会を行わないといけない!」と奔走するわけです。
このシーンは泣けました…。
瑤子が立ち上がれたのも、アートの力であり、夫イーサンのアートを愛する心でした。
③小説の力も感じた!
アートの力と同時に、小説の力も感じました。
美術に興味ない僕が、美術館に行きたくなりましたもん。
人生に一度でいいから、ゲルニカ見てみたいってなりましたもん。しかも、ピカソについてかなり詳しくなっちゃった気がしますもん。
全然関心を持っていなかった分野に、興味を持つきっかけを作れる。
これは小説の力だなぁ。
④ラストシーンのまとまり
ラストシーンは、意外?でした。
普通にMOMAの展覧会で飾られると思ったら、まさかの国連に行っちゃうとは!
でも、これが一番、
「ゲルニカ(アート)」は、平和を望むすべての人のもの。
という、原田マハさんが『暗幕のゲルニカ』で伝えたいメインメッセージを伝えるのに適した形だったんだと思います。
アートはときに人を動かし、ときにどんな武器にも勝るものです。
ピカソやゲルニカ、美術に興味がなくても、さらりと読める作品。オススメです。